今回は戦略策定フェーズの『VE方針策定』について解説していきます。
目次
VE(Value Engineering)方針策定
VEとはValue Enginieeringの略称で、製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、 システム化された手順によって「価値」の向上をはかる手法です。(出店:日本バリューエンジニアリング協会)
ここでは、コスト構造・仕様分析によって得られたコストドライバー毎にVE方針を策定していきます。コスト構造・仕様分析についてはこちらの記事で詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
VE方針の例としては費目別に以下のようなものがあります。
全般
- 定義されたソーシング範囲内にいる取引先の技術的強みを広く吸い上げて比較検討するため、必要な機能(耐熱温度、バリア性、印刷との相性、等)だけを規定した提案型見積を実施
- 発注数量別単価制に切替え、各社への発注量配分を最適化
原材料費
- 物流費・納入リードタイムの制約を考慮したソーシング範囲を定量的に定義し、原料調達力の高い取引先にフォーカスした発掘活動を実施
- 原料の相場変動と連動した変動単価制の値決めスキームを導入することで、リスクマージンを低減
- 材料のグレード、組合せをより低コスト仕様に変更
加工費
- コストテーブル分析に基づき、原料調達力のある取引先に、別の取引先の樹脂の組合せを移管出来ないかを検討する
物流費
- 配送経路をミルクランに変更
その他
- SLA(サービスレベルアグリーメント)を締結し、品質管理工程等のオーバースペックを見直す
VE方針策定のポイント
「常にコストドライバーを意識すること」の一言に尽きます。コスト削減施策の中で最も効果が大きいのが「何を買うのか」を変化させることなのは、ここまでも何度もお伝えしてきたかと思います。VE方針策定はこの「何を」をどう変化させるかを決めることです。コスト削減に最も影響を与える「何を」を変えるプロセスに於いて、「何を」を変えることに最も効果のあるコストドライバーに注目することの重要性は火を見るよりも明らかです。
VE方針策定の実務
ある外資系高級食品メーカーA社での事例を見てみましょう。A社では毎年、季節毎に年4回、日本全国で大きなイベントを催していました。A社の欧州本社では、毎年その年のテーマを決定しており、イベントではそのテーマに基づく様々な商品の紹介がされていました。テーマに基づいて毎年色や形といったデザインが変わる商品と、定番となっていてほぼ変わらない商品がありましたが、A社では毎年、双方の商品に対してイベント用資材をゼロから発注しており、その費用は年間で約4億円でした。
そこにコストコンサル会社がコスト削減プロジェクトに入り現状分析をした結果、「テーマ性に合わせたデザイン重視のイベント用資材」と「定番商品に合わせた機能重視のイベント用資材」の2つに大別されることが分かりました。想定外であったのは、金額ベースで言うと「デザイン重視のイベント用資材コスト」:「機能重視のイベント用資材コスト」の比率が3:7と、機能重視のイベント用資材コストの方が大きく倍以上あったこと。毎年のテーマ、商品に拘るA社ではありますが、資材については拘りが少ないことが数字で判明しました。
一つ一つの品目を詳細に仕様現状分析した結果、イベント用資材のコストドライバーは「デザイン変更の有無」ということが分かりました。デザイン変更が無ければ、仕様が変わらないため「何を買うのか」を検討する際、最も効果のある「何も買わない」ということが選択肢として考えられることが明らかになりました。
そこで、機能重視のイベント用資材については「基本的には仕様を変えず(変わらない)に、毎年購買せず回収・洗浄・保管すること」とVE方針を策定しました。もっと言うと、「何も無いものを買う」というのが、この時のVE方針になりました。この結果、回収・洗浄・保管の工数が追加されたことで回収用費用や破損品の補填費用が発生したものの、年間約30%のコスト削減が達成されたのでした。