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病院も経営努力をしなければ生き残れない時代
高齢者の増加、いつも患者で混んでいる外来、地域から無くせない公的サービス…こういった情報やイメージから、「病院は儲かっている」「潰れない」と考える人も多いかもしれません。しかしながら、日本の病院の約2/3が医業利益(企業でいう営業利益)ベースで赤字という実態があります。市民病院や県立病院といった自治体病院に至っては、実に85%がいわゆる「営業赤字」状態なのです(※1)。診療所・歯科医院も含めた医療機関の休廃業件数は2007年の108件から2014年には239件に倍増しており(※2)、病院も経営努力をしなければ事業を継続できない時代になっています。このような実態の背景には、病院経営特有の特徴があります。
病院事業の特徴①:サービスの単価を自分で決められない
収益は、製品/サービスの単価×数量に因数分解できます。病院は「医療行為」というサービスを患者に提供しますが、「単価」は手術やリハビリなど各医療行為の価格、「数量」は各医療行為を実施した回数に該当します。企業であれば自由に自社サービスの単価を自由に定めることができますが、病院の場合はそれが国によって決められており、かつ2年に1回見直されます(診療報酬改定)。国は社会保障費増加を抑制するため、近年はこの単価が引き下げられる傾向が続いています。高齢化に伴い患者数が増加しても、その対応には人手が必要なため、コストも増えます。その結果、多くの病院では「増収減益」傾向が強まっています。
病院事業の特徴②:「不採算領域だから撤退」は難しい
不採算事業の精算や競争力の弱い市場からの撤退という、企業では当たり前の経営戦略が、病院では非常に難しいことがよくあります。例えば、「救急部門は赤字だから、来月から救急車受け入れをやめます」という経営判断はすぐには出来ません。医療は公的サービスであり、特に地方では地域医療を守るために不採算でも継続しなければならないケースがままあります(その分、自治体などから補助金が支払われる場合もあります)。
病院事業の特徴③:コスト意識の低い組織
院長をはじめとする多くの病院の経営層は「医療の専門家」出身であり、経営のプロではありません。医療者として患者をいかに増やすか(=収益増)については考えることができても、コストに対しては意識が低いのが現状です。また、看護師・薬剤師・医師事務など、医療専門職の縦割り組織であるため、一般的にスタッフの経営に対する意識が低く、組織横断的な改善も進みにくい文化です。以前私が経営支援した300床台の病院では、ネット検索すれば1台10万円で購入できるPCを、ある部署が付き合いのある業者の言われるがまま、1台30万円で購入していた(価格が適正かのチェック機能もなし)ケースがありました。
利益無くして果たせる使命なし
今後は病院も企業と同様、「利益なくして果たせる使命なし」の考えを持つべきです。補助金や、公立病院では所属自治体の補てんがあるとはいえ、財源は有限です。自力で利益を残す経営努力をしなければ、いずれ事業の存続は難しくなるでしょう。 「利益を残す」ことを考える場合、まず着目すべきはコスト削減です。理由は3つあります。
コスト削減効果は効率が良い
収益を上げることももちろん重要ですが、上述の通り、病院収益は外部環境の影響を強く受けるため、戦略変更を余儀なくされたり、想定以上に時間を要したりする場合があります。コスト削減は主に院内に対するアプローチであるため、外部環境の影響は最小限になります。また、コスト削減額がそのまま利益となるため、効率よく効果を上げることができます。
効果が見えやすい
縦割り組織になりがちな病院組織において、院内全体に経営改善活動を広めていくためには、小さな成功体験を短期間で積み重ねていくことがポイントです。コスト削減は取り組みの効果が比較的短期間で、かつ金額で算出されるため分かりやすく、スタッフのモチベーションアップに繋がります。
大きなポテンシャルが眠っていることが多い
「病院事業の特徴③」の事例のように、コスト削減の意識が低い組織故に、大きなコスト削減ポテンシャルが眠っていることが多くあります。
おわりに
以上のように、「コスト削減を制する病院が経営を制す」といっても過言ではありません。こちらの記事にて、病院を費用の観点から分解し、コスト削減のポイントを紹介しています。現在以上に経営改善を進めたいという方は、是非ヒントを見つけてください。
※1:厚生労働省医政局 医療施設経営安定化推進事業 平成27年度病院経営管理指標
※2:帝国データバンク