オフィスではICTを活用したペーパーレス化が進んでいますが、病院は電子カルテや各部門システムが運用されているものの、まだまだ紙運用が主流な部分も多くあります。例えば、会議や委員会で参加者全員に分厚いレジュメや報告書が紙で配布されている病院も多いでしょう。せっかく準備された資料も、その会議や委員会が終われば大抵ゴミ箱かシュレッダー行きになっています。また、患者への説明書類やサインもほとんどが紙運用です。
一般的に、ペーパーレス化のメリットには、
- 印刷に要するコスト(インク、印刷紙等)の削減
- 保存スペースの削減
- 保存状態の改善(資料が劣化することがない)
- 資料の検索が容易
- セキュリティ対策が可能
などがあります。一方で、デメリットとしては、
- ネット環境や記録媒体の容量の制限を受ける
- 機密情報が漏えいした場合の拡散速度が速い
- データの保存やセキュリティ対策にコストがかかる
- ITリテラシーが高くない人にとっては使いにくい
などが挙げられます。但し、企業に比べて病院でペーパーレス化が進まないのは、上記デメリット以外にも電子カルテの影響が大きいと考えています。
病院では1990年代に電子カルテの導入が始まり、「診療録のペーパーレス化」は大きく進みました。しかしながら、電子カルテはあくまで「診療録の作成」という一つの業務のアウトプットを電子化したものであり、それ以外の様々な業務との整合性は十分取れていません。ペーパーレス化を実現するためには、基幹システムである電子カルテを中心に、院内で作成されるあらゆる文書を一元管理できるシステムと運用が必要になるでしょう。
実際に、病院で業務改善に向けた話し合いを行うと、「現状では解決策として紙を使った方が良い」という結論になることも多くあります。ペーパーレス化が業務改善につながった事例と、逆に、紙を利用することで業務改善につながった事例を紹介しましょう。
ペーパーレス化が業務改善につながった事例
A病院では、緊急時に各病棟から持ち出す患者情報を、内容ごとに4枚の紙に印刷して毎日更新とファイリングをしていました。しかし、そのうち2枚は常に片面しか印刷されないため、無駄が生じていました。改善策として、裏紙を利用して印刷枚数を4枚から2枚に減らすことで、院内全体で年間40,000枚以上の紙の使用削減を実現しています。
紙を利用することが業務改善につながった事例
一方、B病院の看護部では、申し送り時間を短縮するため、あえて紙のワークシートを活用。事前に申し送る内容を病棟内で決めておき、ワークシートに事前に書き込んでおくこと申し送りの簡素化を目指した結果、申し送り時間が約15分短縮しています。各看護師がスマホやタブレットを携帯しているわけではないため、リアルタイムにメモが取れ、その日のTODOリストが常に把握できる紙の活用がベストと判断されました。ペーパーレス化はそれ自体を「目的」とするのではなく、「手段」として考えることが重要なのです。