病院は、手術や救急車受け入れといった緊急性の高い医療を行う施設、リハビリテーションを中心に行う施設、精神疾患を専門に治療する施設など、それぞれの役割に応じた医療機能を有しており、コスト構造も異なります。今回は、病院の医療機能の違いがコスト削減戦略に与える影響を、管理会計の視点で見ていきましょう。
目次
急性期病院は「変動費型」、慢性期病院は「固定費型」
平成27年度地方公営企業年鑑で用いられている医業費用の各勘定科目を、便宜上下記のように分類し、病院機能別に固定費率と変動費の割合を分析してみます。
固定費:給与費+減価償却費+研究研修費+資産減耗費+経費の1/2
変動費:材料費+経費の1/2
どの機能の病院も変動費より固定費の方が高いですが、相対的に急性期病院は「変動費型」、慢性期病院・精神科病院は「固定費型」といえます。
急性期病院は手術に使う物品や薬物療法に使う医薬品を大量に購入するため、材料費が多くなり、変動費の高いコスト構造となります。一方、慢性期病院は手術や薬物療法は少なく、リハビリや看護など人によるサービスが中心となるため、相対的に固定費(主に給与費)が高くなる傾向があります。特に精神科病院のコストは80%超が固定費となり、労働集約度が高い事業になります。
100床あたり医業費用、急性期病院は慢性期病院の1.7倍
100床あたり年間医業費用は、急性期病院23.3億円、慢性期病院14.0億円、精神科病院9.6億円と病院機能によって大きな差があります。急性期病院の方が、事業規模が大きくなり、コスト削減インパクトも比例して大きくなります。是非自病院の100床あたり医業費用を上記数値と比較してみてください(但し、自治体病院対象の分析であるため、全病院の平均値よりも高く算出されています)。もし自病院の100床あたり医業費用の方が高ければ、すぐにコスト削減を始めましょう。
「変動費型」病院のコスト削減戦略
急性期を中心とした変動費型の病院は、まず材料費を中心とした変動費の削減を優先しましょう。病院はサービスの単価を自由に上げることができないため、損益分岐点を下げるには変動費へのアプローチが有効です。固定費は、給与費以外の項目に削減の余地がないか、検討してください。例えば、清掃や警備といった外部委託費、医療機器保守料などです。急性期病院は患者の回転が速く人手がかかるため、安易に給与費に手を出してしまうと現場の疲弊を招くリスクが高まります。
「固定費型」病院のコスト削減戦略
慢性期病院・精神科病院といった固定費型の病院は、その事業規模からもコスト削減より集患と稼働維持の方が重要になることが多いですが、コスト削減に取り組む場合は、まず給与費以外の固定費に削減の余地がないか、検討しましょう。成功すれば利益を大きく増やすことも可能です。また、慢性的に超過勤務が発生している場合は、業務効率化による時間外手当削減も検討しましょう。