近年、医療事務業務をアウトソーシングする病院が増えています。医療事務業務は受付、会計、診療報酬請求、病棟クラーク、医師事務作業補助など多岐に渡りますが、これら業務をアウトソーシングするメリットは、一般的に次のように言われていています。
- スタッフの採用や入退職、雇用保険関連の手続きに係る業務負担やコストが軽減される。
- 人材育成にかかる業務負担やコストが軽減でき、サービスの質を一定に保つことができる。
- 長期雇用による人件費率の高騰を抑制できる。
特に、定期的に事務スタッフが異動になる自治体病院や、人件費抑制に迫られている病院にとってはWin-Winのモデルになり得るでしょう。但し、きちんと自病院の経営への影響を多角的に検討したうえでアウトソーシングを活用しなければ、短期的に上記メリットを享受できても、長期的にみて病院経営上大きなリスクになることもあります。実在する対照的な2病院を例に説明します。
- A病院:200床台民間病院、医療事務委託なし(全て自院採用スタッフ)
- B病院:300床台公立病院、医療事務委託あり(管理職以外は基本的に委託業者のスタッフ)
医業収益に占める人件費率はA病院60.2%、B病院56.0%ですが、結果的にA病院は黒字、B病院は赤字です。最終損益には様々な要因がありますが、医療事務の視点でも両病院には大きな違いがあります。
医療事務業務のなかには、「4」の診療報酬請求業務など病院経営に直結する非常に重要なものも含まれます。外来のレセプト作成や請求業務の質にはあまり差がないことが多いのですが、診療報酬体系が複雑で多職種連携が必要な入院では、A病院とB病院では診療報酬請求業務の質に大きな差があります。B病院は算定漏れや新規加算の取得で年間5,000万円以上の損をしていました。多くの場合、診療報酬請求業務の成果指標は「査定率」となるため、委託スタッフには過剰請求抑制の意識はあっても、算定漏れ対策や新規加算取得による経営貢献のインセンティブが全くないことが要因です。
様々な病院の事例から考察すると、入院の診療報酬請求業務や医師事務作業補助業務は、病院経営へのインパクトが大きく事務スタッフも組織の一員としてチーム医療や経営への参画が求められるため、自院採用をした方が長期的に見てメリットが大きいと言えます(これら業務に対するマネジメントが徹底されることが前提です)。一方、ルーチン業務の多い受付や会計、外来の診療報酬請求業務は、アウトソーシングの強みを活かすことができると言えます。
医療事務業務のアウトソーシングを検討する場合は、何でもかんでも丸投げせず、業務内容とアウトソーシングすることによる病院経営の影響を精査し判断することが非常に重要です。