薬の処方形態には、患者が診察を受けた医療機関で薬を受け取る院内処方と、調剤薬局で薬を受け取る院外処方があります。厚生労働省の調査では院外処方率が年々上昇しており、2015年時点で76.3%が院外処方となっています。この背景には国が医薬分業を推進してきたこともありますが、病院経営の視点では実際どちらが得なのでしょうか?
ポイント①:薬価差益
診療報酬で決められた価格(薬価)と各病院の購入価格の差である薬価差益は、院内処方の大きな経営的メリットです。平成27年の薬価乖離率は9.1%、薬価差益に換算すると、100床あたり約2,900万円となります(200床以上の自治体病院財務諸表をもとに試算)。優秀な黒字病院でも利益率が2%前後である病院にとって、薬価差益が重要な利益源になっているのは事実です。
ちなみに乖離率が近年上昇傾向なのは、診療報酬の度に薬価が引き下げられているものの、後発医薬品市場の競争激化もあって市場価格が薬価以上に下落が続いていることを意味します。但し、今後もこの流れが続くとは限りません。診療報酬による薬価の引き下げは今後も続き、消費税増税も2019年に予定されています。外部環境が厳しくなることで、病院が得られる薬価差益は少なくなっていくでしょう。
ポイント②:コスト増のリスク
一般的に、院外処方の方が院内処方よりもコストが少なくて済みます。院内処方では、薬剤師の人件費、分包紙や薬袋等の材料費、在庫管理コスト、専用スペースの確保と維持費などが院外処方より多く発生します。これは人件費の高騰や医療の高度化によってコスト増加傾向がベースにある病院経営にとって、大きなリスクになります。
ポイント③:患者満足度
一般的に、窓口負担金額は院外処方の方が大きくなります。また、院外処方だと診察後は病院の敷地外にある薬局まで移動しなければならず、患者満足度低下に繋がるケースもあります。患者の利便性という視点では院内処方にメリットがありますが、そもそも病院は入院するところ。院外処方の調剤に多くの薬剤師が投入され、入院中の患者への指導が疎かになるのは医療の質の点で本末転倒とも言えます。
各病院で院内処方と院外処方どちらを採用するかは、実際の薬価差益額とコスト、そして医療の質の視点からの判断になります。但し、今後の外部環境変化を踏まえると、現在院外処方の病院が院内処方に変更することは経営リスクが大きいと言えます。逆に、現在院内処方の病院は、薬価差益の変化を予測しながら、院外処方化する場合の最適タイミングを事前に検討し、対策を立てておくべきでしょう。目の前の利益に囚われず、中期的に考えることが重要です。