こちらの記事で、医師一人あたり年間290万円の残業手当が計上されていると紹介しました。それでは、院内で最も人数の多い職種である看護師はどうでしょうか。
看護師一人あたり残業手当は年間10万円
平成29年度公営企業年鑑に記載されている全国の公立病院において、看護師一人あたり残業手当は病院間の差が大きいですが、平均値は年間約10万円となっています(下図)。看護師数300人の病院の場合、病院全体の時間外手当は年間約3,000万円となります。この金額も医師と同様、あくまで実際に手当として計上されたものであるため、実態より過少評価されている可能性が高いでしょう。
グラフを見ると、一人あたり残業手当金額が高い病院は看護師数自体が少ない傾向があり、マンパワー不足で看護師1人1人にかかる負担が大きくなっていると考えられます。一方、一人あたり残業手当金額が低い病院の看護師数には大きなばらつきがあります。全体の仕事量が同じであれば、看護師を増やすことで残業は当然減りますが、同時に基本給やその他手当で総人件費も増える可能性があるため、安易な増員は注意が必要です。
「残業が多くて現場が疲弊しているから採用を増やして欲しい」と看護部から訴えられた経験のある経営幹部は多いでしょう。そのような時は、100床あたりの看護師数と残業手当金額の視点で、自病院の立ち位置を確認してみることが有効です(下図)。
第一象限(①)に位置する病院の傾向
100床あたり看護師数が多く、一人あたりの残業手当金額も多い病院群です。このグループは、病床稼働率にもよりますが最も人件費率が高く収支が厳しくなります。自院の適正看護師数を見直す必要があるだけでなく、各看護師の業務効率化についても大きな改善の余地があるでしょう。
第二象限(②)に位置する病院の傾向
100床あたり看護師数が少なく、一人あたりの残業手当金額が多い病院群です。このグループは、主にマンパワー不足により残業が増えていると考えられます。この状況が続くと、離職者が増え、残った看護師の負担が更に増加するという負のスパイラルに陥るリスクが高いため、増員も考慮に入れた対策が必要です。
第三象限(③)に位置する病院の傾向
100床あたり看護師数が少なく、一人あたりの残業手当金額も少ない病院群です。経営的には理想的な状態と言えます。
第四象限(④)に位置する病院の傾向
100床あたり人数が多く、一人あたりの残業手当金額が少ない病院群です。現場視点では残業も少なく働きやすい職場であると考えられますが、病床稼働率によっては高い人件費が経営を圧迫している可能性もあります。
看護師は年間を通して人数の変動が大きいので、他病院比較だけでなく、自病院の値を定期的にモニタリングすることも重要です。例えば、象限③→②へ移動する兆候が見られる場合、時間外が増えている原因を早めに把握し対策を講じることで、離職を防止することが可能になるでしょう。「病床数あたり人数」と「一人あたり残業手当金額」は、その職種の適正人数を検討するうえで有効な指標となりますので、マネジメントに活用してみてください。