「病院におけるタスクシフティングの考え方」の記事では、病院の総コストの50%を占める人件費の削減を図るうえで、今後重要になる「タスクシフティング」の考え方について紹介しました。但し、いざ実行しようとしてもなかなか上手くいかず、挫折してしまう病院も多くあります。実際にタスクシフティングを成功させるためには、押さえておくべきポイントが3つあります。
徹底した業務の標準化とマニュアル整備を行うこと
コンビニのアルバイトが新人や外国人でも一定レベルのサービスが提供できているように、タスクシフティング対象業務は標準化され、マニュアルも整備されている必要があります。したがって、タスクシフティングができる業務も、そのような標準化が可能な範囲となります。標準化の具体的な対策としては、パスの活用が有効です。また、診断は医師しかできず、与薬は医師・看護師しかできない、というように独占業務も多くあるため、タスクシフティング可能な業務と不可能な業務の切り分けが重要になります。
シフト先になるスタッフの人材育成を図ること
今まで自分がやってきたことを他人に任せるのは、とても勇気のいることです。患者の命を預かる病院では尚更で、インシデントを防ぐためにもシフト先になるスタッフのスキル向上は必須となります。
権限移譲を行うこと
病院は縦社会で、また医師に権限が集中しています。基本的に医師の指示がないと多職種はあらゆる医療行為ができず、先生も多忙なため、しばしば「医師の指示待ち」による非効率が発生し、その対応が先生の業務負担増にもなっています。
そこでポイントとなるのが、業務改善の4原則「ECRS」の一つである、「Rearrange(入れ替え)」です。例えば、薬剤師が行う服薬指導の指示権限を薬剤部に移譲し、薬剤師が指示を代行した後で医師がそれを承認、という順序に入れ替えることで、薬剤師は積極的に早期から服薬指導を行うことができます。医師も後で電子カルテの承認ボタンを押すだけなので業務が楽になり、指示漏れも減ります。この権限移譲を行うには、①の標準化と②のスタッフのスキルアップが必要不可欠になります。
A病院では、外科外来の医師業務負担軽減に取り組んでいます。A病院外科は予定入院が多く、疾患別にパスを作成することで比較的容易に標準化が可能です。外来で医師が入院判断をしてから患者が実際に入院するまでの業務を詳細に可視化し、タスクシフティング可能な部分を議論したところ、これまで先生が全て実施していた「術前検査指示入力」、「麻酔科医への検査結果共有」、「患者への入院説明」など、多くの業務が他職種へシフト可能ということになりました。現在は、外来医師の業務量3割減を目標に、業務の標準化と医師事務作業補助者のスキルアップに取り組んでいます。