「看護師が足らず、病棟を一つ閉鎖せざるを得なくなった」という病院は少なくありません。優秀な人材の確保は全ての病院で重要な経営課題です。
人材の確保・育成に十分な投資ができている病院は、医療の質向上・経営改善に繋がる正のサイクルが回ります(下図)。スタッフのモチベーションが高く成長意識が高いため離職率が低く、評判を聞きつけて優秀な人材が集まります。必要な部門に適正人数が配置できるので業務負荷が過大にならず、職場環境が良好に保たれます。このような病院は質の高い医療が提供でき、その結果、診療単価UPや患者増加など経営にもプラスになります。
日赤などが採用している看護師奨学金制度(附属の看護大学卒業後は指定の赤十字病院に数年間勤務する代わりに、奨学金を貸与する制度)は、この正のサイクルを維持するために有効な仕組みの一つです。
一方、負のサイクルに陥っている病院は、離職率が高く既存スタッフの負担が大きくなっています。そうすると職場環境が悪化、モチベーションも低下し更なる離職を招く…といった事態になり、医療の質・経営悪化に繋がります。経営環境が厳しいなか、病院は人材確保・育成にどの程度投資すべきなのでしょうか。
日本病院会の調査報告によると、年間の人材確保・育成費(研究費、研修費、福利厚生費、諸会費、寄付金)の平均は100床あたり約3,600万円、医業収益の1.57%を占めます(下図)。
約6割の病院が赤字のなか、この費用を捻出するのが困難な場合も多いかもしれません。しかしながら、一旦負のサイクルに入ってしまうと、状況を改善するのが難しくなります。人材確保・育成にかかる費用は、「コスト」ではなく「投資」と考えることが重要です。
(出典:日本病院会「医業税制委員会」平成 30 年度医療人材確保と育成に係る費用について 会員病院調査)