いよいよ本格的に物流機能ごとに取り組むコスト削減活動について考えていきましょう。
原則として、相手の不利益になる様な「強硬な価格交渉」は行わず、双方にとってWIN-WINとなるためのコスト削減活動を志します。「強硬な価格交渉」で実現したコスト削減は、遠くない未来に必ず破綻します。特に輸配送におけるコスト削減の場合は、記憶に新しい「宅配クライシス」の影響もあり、市場価格が上がり続けています。
※出典:東洋経済オンライン「宅配便、値上げトレンドが目先一服の理由」より引用
※出典:日経トレンディ「郵便か黒ネコか飛脚か 宅配料金改定で最安値は?」より引用
いや、むしろ以前が安すぎていたので「戻ってきた」という表現が正しいでしょう。3PL事業者側が荷主の「強硬な価格交渉」を渋々受入れ、物流業務を続けていくと、再びキャリア企業からの値上げ要請があったり、中堅の配送業者が突然廃業してゼロから足回りの構築を強いられたり、3PL事業者としても徐々に体力を削がれ、最悪の場合は「取引停止」という事態に陥る可能性も少なからずあります。そうすると、3PL事業者へ物流業務を委託している荷主企業としても、またゼロから物流構築をしなければなりません。当然ながら時間と手間を多く要し、モノの移動や作業料など、積み重ねると数百万~数千万円単位の莫大な移転コストがかかることになります。
向こう1年間のコスト削減を図るのではなく、5年後10年後の将来像を描き、中長期的な目線でコスト削減に取り組む必要があります。
では具体的にどの様に取り組めば良いでしょうか。
まず、輸配送におけるコスト構造を理解しましょう。
※出典:社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業2007」より引用
「トラック運送事業者の経費」は、輸配送サービスにおける「原価」と捉えることが出来ます。これを踏まえて「強硬な価格交渉」をするということは、原価を下げる、すなわち利益を減らすということになります。正直、運送事業者にとっては面白くありません。WIN-WINとなるには、事業者にとっての原価を下げずに荷主にとってのコストを下げること。難しいですね。。。
輸配送コスト削減において、基本的な考え方としては、
(1)クルマの走行距離を減らす
(2)クルマの台数を減らす
(3)クルマの走行&作業時間を減らす
という3つの軸があります。
それではこれらを紐解いてみましょう。
言語として「クルマの~を減らす」を見てみると、何のひねりもないモノに映りますが、掘り下げていくと実に奥深いモノと考えられます。単純に「クルマの~を減らす」にはどの様な条件が必要でしょうか?自身でクルマやバイクを所有していたり、お仕事で使われている方はご自身のことで考えてみてください。
例えば、埼玉県のとある住宅地にある自宅から20㎞離れた職場にクルマで通勤しているとしましょう。
ここで「クルマの~を減らす」を実現させるには、
①職場に近いところへ引っ越す
②遠隔作業を増やして出勤回数を減らす
③1日の勤務時間を増やして出勤回数を減らす
④クルマをやめて電車通勤にする
⑤職場を自宅付近に移動させる
⑥カーブの多い道路を直線にする
⑦道路の起伏をなくして水平にする
⑧近所の同僚とクルマを相乗りする
⑨自動運転式のクルマに乗り換える
⑩職場を辞める
一見すると現実味の無い、突拍子もないアイデアが含まれている様にも見えますが、柔軟な考え方を持てばどれも機能しうるアイデアになります。
実際の輸配送機能と比べながら見ていきましょう。
①~③は比較的分かりやすい例になります。
①は貨物の発地点を着地点に近づけるということですので、関東方面の貨物が多ければ関東に拠点を近づけると効果が出ます。スノーボードグッズを通販で売る場合には、西日本より東日本の方が需要はありそうですよね?この場合は東日本で発拠点を構えた方が距離が減らせる、つまり、コストが安く済みます。
②と③については、得意先への納品日をまとめたり、1回あたりの数量を増やしたり、回数(台数)を減らすためのものになります。
④はトラックでの輸送において車種を切り替えたり、モーダルシフト(鉄道輸送の導入)が当てはまります。
⑤は複数の拠点を配置している得意先において、発地点からより近い納品先に切り替えることなどをいいます。
⑥と⑦は、配送ルートを組みなおして距離や時間を削減すること。
⑧は共同配送を構築したり、帰り便での配送を組んだりです。
⑨⑩は、、、ご想像にお任せします(笑)
チームのメンバーで他にもアイデアをたくさん生み出せると思いますので、まずは制限をかけずに自由な発想でアイデアを一度出してみると、そこから良いアイデアに発展することが多くありますので ブレストを実施すると良いですね。
輸配送コスト削減の実例として、一つ紹介します。
従来、管理コストを抑えるために1拠点で運用していた物流体制を、東日本と西日本の2拠点に分けて構築し、ラストワンマイルの配送距離が劇的に削減され、大幅なコスト削減が実現できました。
横持回数が増えたり、管理コストや運用体制の構築がネックと考えられましたが、データを分析して検証したところ、拠点を分けた方が全体のコストが抑えられることが分かりました。
※J社 宅配便配送における都道府県分布図
この分析で中国・九州地方の個数が一定量あることが判明し、出荷拠点を西日本と東日本で分別することにしました。
企業の経営計画によって物流戦略を形成する必要があります。
データ分析によって、この様な傾向が出たのでこういう体制を組む。しかし、それはあくまで現状ベースでのことです。3年後にグループ会社との統合を計画しており、物量が現状の1.5倍になる。こんなケースがあれば、前述の拠点編成では捌ききれず、拠点を拡大しなければならない場合は3年後を見据えて別の取組みを進めることもあります。
物流戦略の形成=経営計画の策定と言っても過言ではないですね。