昨今、企業の財務情報ではなく、環境、社会、ガバナンスへの対応を基準に投資判断を行うESG投資がヨーロッパ、アメリカを中心に急激に拡大しています。日本国内でも投資家を中心に新たな投資原則として注目を集め、企業によるESG対応が急務となりました。
この世界的なESG投資の急激な拡大を背景に、日本政府が進める「2050年カーボンニュートラル」の一環で、2030年半ばをめどにガソリン車販売を禁止する方向で最終調整に入ったと各メディアで報じられました。
今後、ますますクルマの電動化が加速されることが確実ですが、今回はその中でも究極のエコカーである燃料電池車(FCV)に関わる触媒開発を支える技術を紹介します。
目次
燃料電池について
1. 電池の種類
皆さんが「電池」というと何を思い浮かべるでしょうか?身近なもので「乾電池」やスマートフォンに使用される「リチウムイオン電池」など、様々な電池がありますが、大きく2つに分けると「化学電池」と「物理電池」に分類できます。化学電池は、化学物質が電気化学的に反応する時の電子を取り出して電気エネルギーとして利用します。一方、物理電池は、物質内部で物理的に起こる電子のエネルギー変化を利用します。
化学電池は、一度放電してしまったら使えなくなる「1次電池」、充電して繰り返し使うことのできる「2次電池」、外部から酸素と水素を供給して発電する「燃料電池」に分類されます。
図1. 電池の種類
引用元:たった11円でもできる、カンタン電池の仕組み (1/2) – EDN Japan
2. 燃料電池の特徴・仕組み
前項で触れた通り、燃料電池は外部から酸素と水素を供給して発電しますが、一番の特徴は、発電時に排出されるものが水だけで、環境に優しいという点です。また、電気化学的な反応を利用した発電のため、機械的に動かす仕組みが不要で、騒音が少ないことも特徴です。さらに、理論的な発電効率は火力発電などに比べて非常に高く、損失分の排熱も利用しやすいという特徴があります。
引用元:中国電力ホームページ
燃料電池の仕組みは、水素ガスを負極に供給し、水素が水素イオンと電子に分かれ、水素イオンは電解質層を通って正極へ移動し、電子は外部回路を通って正極へ電流として流れます。正極では外部回路を取ってきた電子を、外部から供給された酸素が電極で受け取りながら、電解質層を通ってきた水素イオンと反応することで水が生成します。
3. 燃料電池の種類
燃料電池の種類は使われる電解質の種類によって大きく5つに分けられます。
図2. いろいろな種類の燃料電池
引用元:トコトンやさしい燃料電池の本 第2版
各燃料電池を運転温度で分類した場合、低温形と高温形では電極に使われる触媒に特徴があります。運転温度が低いと電極での反応が進みにくく、低温でも活性の高い貴金属系の触媒が使われます。高温形では高価な触媒を使わなくても十分に反応が進みます。
電極触媒について
触媒は燃料電池の重要部材と説明しましたが、触媒によっていかに活性化エネルギーを減少させて、反応を速く進めるかがカギです。活性を上げるためには、触媒粒子を小さくして表面積を大きくすることが方法の一つとしてありますが、小さくすればするほど凝集しやすいという課題も出てきます。
また、電極での反応が進むためには、ガス、触媒、電解質の三相が接した状態の場所(三相界面)が必要です。燃料電池の性能向上には、活性化エネルギーを大きく減らせる触媒を開発すること、三相界面が多い電極を作ることが重要です。
現状のPEFCの電極触媒には多量のPtが使われており、FCV開発当初は1台当たり100g以上も使われていたといわれています。今後の飛躍的なFCVの普及にはPtの使用量をいかに減らすかも重要な課題の一つとなります。
触媒開発の課題と新技術の紹介
この重要部材の触媒ですが、①金属の種類、組成比の組み合わせが膨大、②製造条件が過酷(長時間、高温、真空 等)③合成ルートが複雑 という開発プロセスに課題があります。これを解決する新たな手法として無電解めっきプロセスを応用することが検討されています。
これにより、数分で金属ナノ粒子触媒を簡便に作ることができ、製造過程で使用する化学物質の消費量も抑えることができます。
水素をどうやって作るか、どのように大量に輸送するか、水素ステーションのさらなる設置など、FCVの普及に向けた課題は多いですが、水素エネルギー社会の構築に向けて様々な活動が今後も展開されていくことが期待されます。
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