2021.02.15

材料開発を支える「マテリアルズインフォマティクス」

AIやビックデータが世間のはやり言葉となり、機械学習やデータマイニング、深層学習といったデータ科学的手法の利用が様々な業種・業界でムーブメントとなっています。
今回は素材産業において、AIや最先端のデータ処理技術を活用して新規材料を探索する「マテリアルズインフォマティクス」について紹介します。

目次

マテリアルズインフォマティクスについて

素材にまつわる「10⁹」と「10⁶²」という数字が何を表している数字か皆様は想像がつきますか?
これは、これまでに人類が見つけてきた素材の数が「10⁹」、まだ見つかっていない素材が「10⁶²」以上もあると言われています。
この未知なモノが膨大にある素材産業において、従来の開発現場は実験と理論計算、さらに熟練の研究者の経験と勘によって支えられ、新製品開発に至るまでには非常に長い年月を要することもあり、開発期間が10年以上になるケースもありました。

マテリアルズインフォマティクス(以下、MI)は、データ科学を用いた情報収集と分類を通して帰納的に得られた推論を材料開発につなげ、より短期間で効率良く、さらに人間では気づかなかった新たな結果を得られる手法として注目されています。

    

図1:マテリアルズインフォマティクスの流れ

MIによる材料開発を目指すきっかけとなったのは、材料の持つ基礎的要素を「ゲノム(遺伝子)」になぞらえて、2011年に米国で発表された「Materials Genome Initiative(MGI)」でした。以降、他国でも取り組みを活発化させており、欧州では計算科学に力を入れ、中国では100億円規模の予算で中国版MGIを立ち上げています。
日本でも遅れはしたものの、物質・材料研究機構(NIMS)を拠点に大学、研究機関、企業が参画した「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」が発足し、その他 大学や研究機関が中心となるプロジェクトが多数立ち上がっています。

マテリアルズインフォマティクスによりもたらされるメリット

開発コスト、期間の低減/短縮
素材開発では理論計算は使われるものの、研究者自身のマンパワーに頼るところが多いのが実情です。類似開発事例を調査するために特許文献や論文を読んだり、それをもとに研究者自身の経験、勘で材料設計、評価を繰り返し、多大な開発コストがかかっています。
MIを利用することで候補となる材料設計を絞り、実際の実験数を減らすことができ、コスト・期間を削減することが期待されます。

革新的な素材発見
現在は論文や実験を通して得た人の知識をベースに開発が行われています。MIによって、これまで人間では気づけなかった化学構造と物性の相関性が見出され、革新的な素材を開発できる可能性が高まります。

マテリアルズインフォマティクス推進のハードル

これまでMIによるメリットを説明してきましたが、実際に導入し、利活用するためには課題もあります。

データ収集
データが紙ベースで保存されていたり、保存フォーマットが統一化されていなかったり、すぐに使える状態にないことがあります。また、各個社だけでのデータ整備は困難であるものの、秘匿性の高い情報を社外に出せないという実情があります。また、出版社の学術論文をもとにしたデータベースでは著作権の問題も潜んでいます。

人材
産業界全体にデータサイエンスが不足していますが、MIの利用においては素材分野における知識も同時に必要となります。産学連携で研究を進めると同時に人材育成も急務となっています。

 

5G、EV化等 我々の生活を豊かにする最先端技術には新素材開発が不可欠で、より早く、安く、高性能なものが必要となります。これまでは日本が先端素材分野を牽引してきましたが、国際競争力向上のために、素材メーカーだけでなくコンソーシアムを組む等、産官学で連携して取り組みを加速させる必要があります。

様々な課題はありますが、AI技術を使いこなす人と人同士の繋がりがより強固となり、発展していくことが期待されます。

 

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