今回は、消費者向け食品メーカーの包装材サプライヤー最適化プロジェクト事例をご紹介いたします。このプロジェクトで取り扱った包装材はトレーやフィルム、ダンボールになります。
当時、このクライアント社内ではトップを含めた経営層の交代があり、全社的なコスト見直しの指示がトップダウンで出されたため、コスト削減と同時にプロジェクト前は無かった調達組織の構築が必要となっていました。そこで、まずは課題の洗い出しを行ったところ、「創業社長の独断で築かれてきたサプライチェーン全体(仕入品目、仕入先、仕入条件)に社長以外がメスを入れられなかったため、最適化されていない。」という課題が見つかりました。この問題を少し詳しくみると、以下の3つのような形になります。
- 調達部には受発注機能しかなく、仕様情報、機能情報、コスト構造といったコスト削減に必須な情報が担当者個人のみ知るところとなり、マニュアル化/データベース化されていない
- 新規の調達部では、担当者の調達経験が不足しており、また組織そのものとしても調達プロセス、サプライヤー選定プロセスといった標準プロセスがない
- クライアント社内では複数のプロジェクトが同時並行で進んでおり、各担当者の工数確保が困難
これらを受け、施策方針は「長年見直しがされていなかった仕入品目の仕様変更と仕入先の見直しを同時に行うことによる調達ポートフォリオの最適化」ということになり、この施策により、最終的に約7%・年間2億円強のコスト削減を実現しました。
今回は大まかに以下の表のような形で施策を進めていきました。
この表で示した施策立案のプロセスのうち、赤字で示している4つのポイントについて少し詳しく見ていきましょう。
まずは「新規サプライヤー候補へのヒアリング」です。
基本的に「サプライヤーはコスト削減に最も重要な友達」という気持ちで全ての業務に取組む必要があります。なぜならば、特に日本はサプライヤーがノウハウを多く持っている(悪く言えば、ため込んでいる)ので、彼らのノウハウを活かすことがコスト削減額を最大化するのに必要不可欠となるからです。その際、既存サプライヤーは今の取引規模(売上と利益)を守ろうという力が働き、全てのノウハウを開示してくれることは少ないのですが、新規サプライヤー候補は新規取引を欲し積極的に提案してくれるので、アイデア含めて出し惜しみなく協力してくれます。早めに彼らを巻き込むことがプロジェクトの成否に大きく影響します。
次に「既存サプライヤーへのヒアリング」です。
ここは非常に気を使うヒアリングとなります。クライアント企業の担当者を交え、「この度、クライアント企業にて経営層の交代に伴い、全社的なコスト削減の見直しをするように指示が出ました。その上で、コスト削減のプロである●●株式会社にも協力を仰ぎながら、プロジェクトを進めていくことになりました。」という前提を冒頭にお伝えすることでサプライヤーに本気でコスト削減をする意識を持ってもらいました。
「仕様変更の影響度調査」では、各品目のコストを決める「変数(=要素)」を見極め、その要素の影響度をコスト構造から分析していくことで、コストドライバーの特定に繋がります。
最後に「仕入先サプライヤー市場の調査」ですが、ここでは「①単価削減または②数量削減を達成する施策は?」という視点を持ちながら、コスト削減施策を発散させ、まず「実現可能性」の高い施策を選定します。その上で、どれだけ効果が出そうかをそれぞれの施策に対して算出することで、クライアント社内で「コスト削減施策をやることで、ちゃんと成果が出る!」という成功体験を早めにしてもらい、継続した取組みになるように施策立案、アクションプランの作成、チーム構築までを実施しました。
また、コスト削減施策の実施に関しても、仕様変更・仕入れ先の見直しの両方について順に詳しく見ていきましょう。
まずは仕様変更についてですが、新規サプライヤー候補や社内の開発部のアイデアを基に、受け入れられる限界までの仕様変更のアイデアをクライアントが把握した上で、「この場合、いくらになりますか?また、他にコスト削減に繋がる提案はどのようなものがありますか?」ということを既存と新規双方のサプライヤーに提案依頼を掛けて行きます。アイデア出しには「ⅲ.コスト削減施策の立案」の期間である約1ヵ月を費やし、インパクトがあるアイデアに関して、”ロジックを組み立てられるもの”、かつ”ストーリーとして理解してもらえるもの”を選んで行きます。その際、コストドライバーを軸にしてアイデア出しをし、施策マトリクスをつくることで網羅性を担保しながら、優先順位をつけていきます。
仕入れ先の見直しについては、コスト競争力があることがまず大前提となります。その他に、クライアントとの取引に対して積極的かどうかや、クライアントの購入金額が与える影響は大きいかといった視点でサプライヤーのショートリストから作りこんでいくことで、コミュニケーションコストも削減できます。統計的に言うと、最低でも「7社間」での競争入札をすることが、より大きなコスト削減を実現する上で重要になります。また、仕入先の見直し時に最も気を付けることは、「安定調達」を担保することです。よって、既存サプライヤーを無碍にしたり、代替案が無いのにも関わらず吹っ掛けたりすると、力関係がそもそも弱いので、結果コストアップに繋がったりします。
いかがでしたでしょうか?クライアントと同じ目線で、チームとなってコスト削減を進めていくことで得られるのは、数値で見えるコスト削減だけに限らず、ノウハウの蓄積による人の成長も可能となり、より長期的にクライアントでの効果が継続することに直結します。そのようにコンサルタントによる支援が終わった後でも効果が継続する仕組みが作れることはプロジェクト冥利に尽きますね!