2019.04.03

働き方改革と物流コストのパラドックス

物流企業側からの目線で「クライアントの物流コスト削減」に取り組む。それはすなわち、「自社の売り上げを減らす」ことを指します。例えば、現状のピッキング料金が1点あたり10円としましょう。その1点あたり10円という料金は、作業工数、利用する備品消耗品や各種ツール(段ボール・カッター・テープ・ハンディーターミナル・システム・台車等)の代金、本部経費、自社の利益等を計算し、適正な料金設定を物流企業が設定したものです。この料金を構成する利益以外(実際は利益を減らしているケースもある・・・)の自前のコストを削減し、提供価格10円のところ、8円、7円、5円のように料金を改定して「クライアントの物流コスト削減」を実現していきます。
つまり、クライアント企業にとっては、売上は変わらずに利益が増える。物流企業にとっては、利益は変わらずに売上が減るという仕組みです。
物流企業にとってはメリットがありません。

この削減活動を通して、活動メンバーのスキルが向上するのは大きなメリットであることは間違いありません。しかしそれだけでは、「価値の高い仕事を経験させてやっているのだから低い給料でも喜んで取組め!」という、まるでパワハラの様な指示をする、剛腕部長のいるブラック企業となんら変わりません。この活動のおかげで現場スタッフの残業時間が減った。そのことでスタッフのパフォーマンスが最大限に発揮されるようになったとは限りません。

少し話は逸れますが、今物流業界は深刻な人手不足に陥っています。

※出典:国土交通省「物流をめぐる状況について」

新しい仕事の依頼を受けても人手不足のあおりで人員体制が組めないため、やむなくお断りする。そんな例もよく耳にします。物流企業は今躍起になって人材集めに奔走していますが、なかなか思うように集まりません。それどころが既存メンバーも相次いで離脱してしまいます。

※出典:プロアス

退職に至る理由は様々ですが、長時間労働、低水準の収入、将来が見えない、職場の人間関係、等々、改めて見るとどこの業界にでも当てはまるものです。実際に私も物流企業の退職を経験していますが、おおむね理由は同じような感じです。物流企業がメンバーの退職理由について真剣に考える機会はほとんどありませんでした。それは、退職者は「根性なし」や「ワケアリ」と早々に見限ってしまうからです。しかし、前述の通り深刻な人手不足もあって、既存メンバーを大事に考える、退職を希望される理由を真剣に考える機会をつくりはじめています。物流業界が直面している状況のなか、「働き方改革」に取り組まざるを得なくなったということです。今、物流業界の労働賃金の上昇が著しくなっています。人材が集まらずに少しでも魅力ある採用オファーとなるための企業努力です。企業としては当然経営が苦しくなります。利益率を下げてでも現場が回るような体制を組みます。

働き方改革という旗のもとで利益を圧迫し、物流コスト削減というクライアントからのニーズに応えるために売上や利益を削ります。物流という社会のインフラ、いや、ライフラインを維持するために事業活動を継続しています。物流業界が潤ってこそ、他の全業界が発展していく。私はそう思っています。

物流コスト削減に固執してサービスレベルを低下させる。働き方改革を推進して収支構造が悪化する。この状況だけは避けなければなりません。

世間が物流に触れる機会は年々増えていると実感があります。TVやニュース、ドキュメント番組などでフォーカスされる機会が増え、ネット通販の爆発的普及で、私たちの暮らしの中に物流があることへの理解が深まってきています。大型の展示会場で物流系の展示会が開催される機会も増えました。物流業界の悩みに共感し、解決に向けて革新的なサービスやソリューションを開発する企業がどんどん出てきているのは嬉しいことです。開発を進めるために足繁く現場に通い、作業を体験(というよりかは実際の作業スタッフとして稼働しスキルを身に付けている)し、現場スタッフの思考や悩みなど、細かいところまで真面目に分析に取り組んでいます。物流企業が現場改善に取り組むスピードをはるかに凌ぐレベルで実行しています。考えてみたら、その様はまるで「働き方改革」そのものの様な気がします。「企業の働き方改革代行」といっても良いかもしれません。

働き方改革を大手や親会社が実践し、下請けや子会社がそのあおりを受けて厳しさが更に増す。そんなこともある様です。物流改善に取り組む上で大事なポイント、「全体最適」です。出荷業務の生産性をあげるために上流工程の入荷業務で手間を増やす。結果的に全体最適はされない。そんなケースが多数あります。

全体最適という視点で真面目に物流改善に取り組めば、すなわち、働き方改革に寄与出来るのでは。。。そんな風に思うことが度々あります。

働き方改革を進めるために全体最適が軽視されるということだけは避けたいものですね。

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