2020年が始まって早くも1ヶ月が経とうとしています。2020年度診療報酬改定に向けた中医協の議論も大詰めを迎えており、今後の個別改定項目の決定や2月の答申に注目が集まっています。今回は、昨年末に公開された「2020年度診療報酬改定の基本方針」をもとに、コストマネジメントの視点で改定のポイントと対策を幾つか予想してみたいと思います。
【引用元】https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000575289.pdf
①収益最大化からコスト適正化の時代へ
まず改定率ですが、診療報酬本体が+0.55%となった一方、薬価等▲0.09%、材料価格▲0.02%の引き下げが決定しています。この「本体プラス、薬価・材料マイナス、全体でマイナス」の傾向は2016年度改定から続いており、病院は収益を大きく伸ばすことが難しくなっています。これまでの「収益最大化」から「コスト適正化」に、経営の視点を変えていく必要があるでしょう。
【引用元】https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000577669.pdf
②働き方改革を通した生産性向上の取り組みは必須
2014年度改定から前回改定まで、重点課題の中心は「地域包括ケアシステムの推進、医療機能分化の推進」でしたが、今回は「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」に変わっています。診療報酬本体+0.55%のうち+0.08%が医師の働き方改革への特例対応に充てられることからも、病院の働き方改革を評価する加算が新設される可能性があります。「何をすればいいか分からない!という場合は、次の視点で出来ることから始めましょう。
1.医師の労働時間管理の適正化に向けた取組
2.36協定等の自己点検
3.産業保健の仕組みの活用
4.タスク・シフティングの推進
5.女性医師等の支援
【引用元】https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000577665.pdf
また、多くの施設基準で常勤配置要件が緩和される見込みですが、「非常勤職員が不足している、もしくは、いても他の業務で忙しく配置転換できない」という状況から、結局施設基準を満たせないという病院も多いと思われます。職種別の役割分担(各職種がすべき専門業務に集中できているか?)と、スタッフの適正配置(どの職種が何人必要なのか?)を考えて業務改善を進めることが重要になります。医師以外では、特に看護師、薬剤師、看護助手、医師事務作業補助者、一般事務職がポイントになるでしょう。(業務改善の進め方については過去記事:【病院における業務改善の進め方】を参照)
③病院の状況に応じた適正病床数と病床機能の選択を
「地域包括ケアシステムの推進、医療機能分化の推進」は引き続き重点課題です。各入院料で次のような見直しが行われる予定で、特にこれまで在院日数のコントロールや院内転棟で稼働率を維持してきた中規模以上の病院には厳しい改定となりそうです。
■急性期一般病棟
・重症度、医療・看護必要度の評価基準および重傷患者割合の見直しにより、入院料1(旧7対1)は厳格化、特に認知症患者が多く救急・手術が少ない病院にとってはマイナス影響大
・逆に入院料2,3は施設基準の緩和もしくは点数見直しにより入院料1からの誘導が進む
■地域包括ケア病棟
・自院急性期病棟からの転棟患者割合に制限を設ける
・DPC病院においては、地域包括ケア病棟への転棟後も期間Ⅱ終了までDPC点数を継続する
■回復期リハビリテーション病棟
・FIM実績指数の厳格化
・入院料1では管理栄養士配置の義務化
この変更が行われた場合、病院がこれまでと同じ収益を確保するには、在院日数の短縮と各病床機能に合致する患者(急性期一般病棟は手術・救急、地域包括ケア病棟は在宅、回復期リハ病棟は重症患者)の集患を今以上に行う必要がありますが、この2つを両立できる病院は限られます。多くの病院では、各病院の内部環境・外部環境に応じた適正病床数と病床機能を選択しなければ、収支悪化のリスクが非常に高くなると思われます。
昨年、再編統合が必要な424病院が公表されたり、稼働病床数を1割以上削減した病院には補助金を出すことが決定されたりと、国はかなり本腰を入れて地域包括ケアシステムの構築を急いでいます。所属医療圏で生き残っていくためにも、いま一度このタイミングで自病院の将来像について検討するべきです。