今回は、ファシリティマネジメント企業における、システム導入事例をご紹介いたします。
この企業は、複数施設の管理業務を一括して行う形でのファシリティマネジメントを受託していたのですが、施設毎に異なる管理業務を実行するためにオペレーションが複雑になり、現場は疲弊して増員を求めていました。一方、委託元からは詳細な業務のレポーティングを要求されていて、委託側の管理システムとクライアント自社の基幹システムを、手作業で連動させて報告資料を作成していました。そのため、この現場の負担を軽減するためのシステムを導入したいという依頼がありました。
この案件をクライアントが委託された際、委託元から業務の引き継ぎを受けていましたが、委託元が行っていた管理方法をそのまま引き継いだだけで、クライアントなりの改善などは行っていませんでした。委託元としては「この企業に依頼すれば、現状の業務が改善され施設管理費が削減される」という事を見込んでいたため、実際の施設管理にかかるコストの「予算と実績の管理(予実管理)」をクライアントに要求していました。「この企業に依頼すればどのくらい改善されるだろうか?」と期待していたわけです。結果、クライアントにとっては、この「予実管理」の状況をレポーティングする業務そのものが負担となってしまっていました。今回の業務改善の肝は、この「予実管理のレポーティング」を効率化した事でした。
目次
課題
- 増員を求める現場と、現状の人員で更なる経営貢献を求める経営層との意見対立
- 既存のシステムを継ぎ接ぎで利用していたため、オペレーションの全体像が見えておらず、業務過多になっていた
- システム化を前提とした顧客のニーズ(業務要件)を整理できるノウハウと人材の不足
これらを受け、施策方針は「必要最低限のシステム開発をとおして、最小コストで最大の効果をもたらす仕組み(システム+オペレーション)の構築」という形になりました。
結果といたしましては、システム改修費用が当初の見積から約90%削減(市場に既にあるツールの活用等)されました。また、オペレーションが可視化されたことにより、社内で今まで気づかなかった課題(例:重複業務や業務の属人化等)を抽出でき、業務によっては業務効率が最大80%向上するということもありました。
今回は以下のようなプロセスで施策を進めました。
- 業務フローの可視化
- 業務の目的の再整理(委託元は何を求めているか?)
- 業務改善施策の立案と実装レポート内容の分析と修正
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- レポート内容の分析と修正
- レポート作成プロセスの改善
- プロセス改善のためのBIツールの導入
- 現場へのインストール
業務フローの可視化
「予実管理」を行うにあたって、クライアントが実際に採用していた業務フローは、
- 委託元が施設管理に使っているシステムからデータを取りまとめる
- それをクライアントの使う社内システムの情報と紐付けるためGoogleスプレッドシートに転記し、そのデータを取りまとめレポート資料の元となるデータ(Excel)を作成
- 上記のExcelを使い複雑な数式によって処理しグラフを作成
- レポート用のパワーポイントにグラフを転記し毎月の報告レポートを作成
というものでした。特に3つめのグラフを作るExcelの管理はこの業務フローの考案者1人にしかできないという属人的な状況でした。
業務の目的の再整理
まずは委託元にとってのレポーティングの目的をはっきりさせ、レポートの余計な部分を削ることが業務効率の向上に直結すると考え、クライアントの要請を再整理しました。
ここで挙がった目的は大きく分けて2つ、「予実管理がスムーズに行われているか?」と「削減可能な施設管理コストはあるか?」でした。つまり、この目的にそぐわない情報は委託元にとっても余計で、報告がごちゃごちゃして分かりづらい(クライアントの業務への過小評価)ということにも繋がりますので、ここをなくすことは委託元にもクライアントにもメリットとなります。
業務改善施策の立案と実装
業務フローを効率化するにあたって、まずはレポートの内容・目的を見直しました。特に報告する必要のないKPIを省き、本当に必要なKPIだけをグラフ化し記載するなどして、レポートの構成を見直しました。
次に、レポートを作成するプロセスを見直しました。「グラフ作成」「パワーポイントへのグラフ転記」においてBIツールを使い、所定のExcelに入力する数字のみを更新するとレポートに必要なグラフやKPIが更新されるようにしました。これにより属人化したプロセスが無くなり、Excelで作ったグラフをパワーポイントに貼り付ける作業も無くなり業務が効率化しました。
当初はこの効率化のために独自にシステムを社内で開発するためのサポートという依頼でしたが、上記のように、業務を可視化し改善ポイントを洗い出した結果、大規模な予算をかけたシステム開発の必要がなくなり、BIツール(月額数百円)の導入のみで目的が達成されたのです。
結果として、委託元の保有する施設の中でコスト高になっていた施設を閉鎖するという意思決定を促すレポーティングが出来ました。もともと閉鎖しようと考えていたが、クライアントのレポーティング(数字)がその意思決定を後押ししたという事のようです。
しかしながら、委託元の施設管理費が削減されるという事は、クライアントへの施設管理の委託費用の総額が減る事に繋がり、売上が減少する事につながってしまいます。「施設管理業務を請負い、その業務を効率化する事で、施設管理費予算が削減され、売上が減る」というクライアントにとっての矛盾を解消するために、クライアントのビジネスモデル(日本型の施設管理ビシネス)の転換が求められるキッカケにもなりました。
いかがでしたでしょうか。時には、コスト削減や業務効率化を目指す上でもっと根本的な問題が発見され、ビジネスモデルの転換にまで繋がるケースもあります。業務効率化を検討することは、単純な生産性向上よりも大きな意義があるとも考えられますね!