今回は、全国にレストランチェーンを展開する外食産業系企業における全社的なコスト削減プロジェクト事例をご紹介いたします。
このクライアントは、MBO(経営陣による買収)により上場を廃止し、株主が大きく変わるタイミングにあったため、再上場を見越した利益創出に向けた全社横断的なコスト削減の依頼がありました。
このクライアントでは、既に他社ファームがコスト削減プロジェクトを直近2年で2回ほど行っており、目に見えた「刈りやすく、実の大きな果実」は既に取られていて、一見、コスト削減の余地はほぼ無いと思われました。しかし、開発部を持っていたり、セントラルキッチンによる製造方式をとっていたため、自社内で”意思決定”さえしてしまえば削減できる費用がそれなりにあったのです。ただ、日本の企業にありがちなパターンで、社内の力関係において購買部が弱かったためコスト削減提案が困難な状況にありました。そこで、外部コンサルタントとして社内のチームを構築を主導し、意思決定を進めてボトムアップ方式でコスト削減に取り掛かりました。
<課題>
- 調達部の組織内影響力の低さ
- 決裁者が複数の部署にまたがり複数人いるため、何かを決めるスピードが遅くなる
また、このプロジェクトと並行して社内でブランディングプロジェクトが進んでいたため、ブランディングが決まらないと仕様が決められない品目はスコープ外とする必要があり、品目の選定に制約がありました。こういった品目としては例えば、お皿があります。外食なので、盛り付けるためのお皿は全てのお客様の目に留まる品目です。さらにメニューも自社開発しているので、メニューに合うお皿を選ぶ必要があります。すると、「①業態のブランディングが決まる→②メニューが決まる→③お皿が決まる」という風にブランディングが決まらないと変えられないのです。
これらを受け、施策方針は制約に即して3品目について以下のような施策方針となりました。
- 【包材資材】仕様変更&サプライヤー集約
- 【電力】取引条件最適化(間接契約内容の見直し)
- 【ガス】仕様変更(プロパンガスの活用)
最終的には、約10億円弱(4%)のコスト削減を実現しています。
今回は以下のようなプロセスで進めました。
表の中でも、赤く表記しているものについて順に詳しく見ていきましょう。
まず「クライアント社内の課題整理」についてです。このクライアント社内ではとにかく窓口になっている調達部に力が無いため、代わりに我々外部コンサルタントが窓口となるべく、敢えて踏み込んだ距離感で他部署にヒアリングを重ね、信頼醸成に努めました。その結果、調達部よりも信頼を得ることができ、その後の提案も通りやすくなりました。
次に「仕様変更の影響度調査」ですが、クライアント社内ではこのプロジェクトが始まるまで、仕様決定に関する明確な基準も、決まった手順も存在しませんでした。ですので、まずはそれらを既存サプライヤーを巻き込みつつ作り上げる所から、決定権を持つ開発部と協力してはじめました。そうして作り上げた基準と手順を基に、セントラルキッチンの現場担当者も巻き込むことで、ステークホルダー全員が同じ物差しと同じ目標(コスト削減)に向けて進むことができました。
施策実施の段階においては「仕様変更」と「サプライヤー変更」を行いました。前者に関しては、上記で書いたように、社内に仕様(技術仕様も機能仕様も)決定に関する基準と手順が皆無でしたので、既存サプライヤーの中で最も取引額の多い会社1社を戦略的パートナーとして選定し、そのサプライヤーの営業担当者だけでなく技術者も含めて品目選定の基準と手順を作り、それを基に複数社にRFPQを実施しました。それにより、機能仕様を満たした新しい技術仕様の提案が複数出て、結果として対象品目の10%弱のコスト削減を達成ました。また後者に関しては、日本メーカーのものを横に流していただけの商社が淘汰され、海外品を含めて良質で安価なものを提供していた商社が残る形になりました。
いかがでしたでしょうか。たとえ制約が厳しい場合であっても、社内の体制を俯瞰し、力関係を客観的に把握することで、購買部からでは通らなかったコスト削減施策案が通りやすくなり、今までは実行できないと思っていたコスト削減施策が実現できるということは案外多くあります。まずは社内の部署同士の関係性をしっかり把握して、どこに働きかけるべきかを少し策士になり、考えてみましょう!