2020.05.01

災害対策の効果とコスト 〜家庭用蓄電池の停電対策コストと効果〜

 2009年11月、家庭用太陽光発電設備に対して「余剰電力倍額買取制度(2012年に固定価格買取制度(FIT)に一本化)」が始まり、余剰電力を48円/1kWhで10年間売電できるようになりました。(出力10kW未満の住宅用太陽光発電設備の場合)。その結果、およそ約50万世帯にものぼる家庭がこの制度を利用して太陽光発電設備を設置しましたが、2019年10月末から10年間の売電期間の満了を迎えることになります。一時は、「48円で売れていた電気の価値がいきなりゼロになってしまうかもしれない!」とまで騒がれ、2019年問題と言われたこともありました。2020年3月時点で大手電力各社の買取価格はおおよそ7〜9円/kWhとなり、ゼロ円ではないにしろ安値感は否めません。そこで注目されたのが蓄電池です。太陽光発電により生み出された余剰電力を安値(7〜9円/kWh)で売るのではなく、余剰電力を蓄電池に溜めておき夜間や災害時に利用する、といった電力の自給自足をうたった商品です。

 今回は、蓄電池をはじめとする非常電源の費用とそのコスト削減効果を検証してみたいと思います。

 

非常時電源のポイント

 家庭用蓄電池をはじめとする非常時電源を考える上でのポイントは、大きく2つに分けられます。1つは、冒頭でも触れたように収益面の問題です。太陽光発電設備で発電した電気は買取価格が下がった状況の中で、いかに収益を保つか、という問題です。例えば、売電価格が7〜9円/kWhと、たいした収入にならないと考え蓄電池を設置することで電力会社から購入していた分の電気代(ex.東京電力の従量電灯Bプランで19円88銭〜/kWh)を下げることができる、といった考え方です。

もう1点は、災害への備え、という点です。太陽光発電や蓄電池があれば、ある程度は災害時も電力を賄うことができます。したがって、災害時の非常電源と捉えることで、多少コストがかかっても許容する、つまりは、安心を買う、という考え方です。

 この2点をきちんと区別して考えることが、大切なポイントです。

 

災害時の非常用電源にはどんなものがある?

 非常用電源における収益と災害への備えを考える前に、災害時の非常用電源にはどのようなものがあるのか、確認しておきましょう。

ガソリン燃料による発電機
発電できる電力量によって価格や燃費は変わりますが、1,500W程度の性能のものは、およそ10万円ほどで手に入ります。ガソリンがなければ動かないというデメリットはありますが、比較的安価な割りに高出力です。

ポータブル蓄電池
キャンプなどアウトドアでも活躍する簡易な蓄電池です。太陽光発電設備を設置した家で、昼に発電した電力を溜めておくことも可能で、工事も不要ですので価格は安価です。ただし、課題は満タンまで充電しても出力が弱く、容量が小さい(利用できる時間が短い)ということです。例えば、10万円程度の製品では1,000wで1時間ほどしか持ちません。したがって、スマホの充電やテレビを見るためなど利用方法はかなり限定されます。

太陽光発電設備
ソーラーパネルを屋根に設置し太陽光を使って発電する機器で、晴れていれば一般家庭で昼間使う電力をほぼ賄うほどの高出力のものを設置することもできます。ただ、5 kW(20枚)の一般家庭用ソーラーシステムでの平均相場は、170万円から200万円程度と高額で、さらに別途工事費も必要です

参照サイト:太陽光発電メリット・デメリット

家庭用蓄電器
ソーラーパネルを設置した家庭に置いて、昼間に発電した電力を溜めておき、夜間など発電できない時間帯の電力を賄うためのものです。5〜7kWhほどの性能で、90万円~160万円で、さらに別途工事費も必要です。

 

太陽光発電設備+家庭用蓄電池の費用対効果は?

 冒頭での課題となっていた事例について考えてみましょう。既に太陽光発電を設置していたが、10年間の固定買取制度が終了(いわゆるFIT卒)している状況で、これから蓄電池を設置を設置するべきかの検討をしているとします。

 上述の通り蓄電池(5〜7kWh)の設置費用は、工事費も含めると100万〜200万といったところでしょう。仮に150万としても、蓄電池の寿命はおよそ10年なので、1年あたり15万かかる計算になり、一月あたり12,500円になります。(補助金などを活用すれば、個人の負担が下がることがあります。)

 ここからは、あなたの家庭でどのくらい電力を使っているかにもよりますが、少なくとも言えることは、蓄電池を設置したからといって、電力の会社に払う費用がゼロになるということはないでしょう。電力会社と契約している以上、基本料金はかかりますし、天候が悪く太陽光発電が機能しなければ、電力会社から買わなければなりません。すると、毎月の12,500円+電力会社に払う料金の合計金額は、多くの家庭では通常の電気料金を上回ってしまい、コストメリットは生まれないことが多いでしょう。

 では、蓄電池の設置は無駄なのかと言えば、ここで重要になってくるのが、蓄電池はコスト面だけではなく災害対策という側面も加味して検討する必要がある、という点です。仮に、蓄電池の導入により現状の電気料金よりも費用負担が増えたとしても、その分が災害対策としての価値を加えた時に妥当な金額であれば、設置するメリットがあることになります。

 まず、蓄電池を設置したことにより電力会社に支払う電気料金はゼロにはならないまでも、削減されることは間違いありません。その電気料金の削減効果と、災害対策における価値(ソーラーパネル+蓄電池があれば、停電時、昼も夜もある程度電気が賄える)を合計したものと、導入にかかった総費用を比較することがここでのポイントです。下の左図のように、削減効果と災害対策における価値よりも総費用が上回るのであれば、蓄電池を導入するメリットは少ないでしょう。一方で、削減効果と災害対策における価値よりも総費用が下回ると考えられる場合は、導入するメリットが高いことになります。

参照サイト:家庭用・住宅用・産業用蓄電池の価格比較・無料見積もりサイト – エコ発蓄電池

 ここで1つ考えなければいけないのは、「災害対策における価値」についてです。まずはっきりといえることは、この「災害対策価値」を明確に数値化(金額に換算)するための絶対的な基準はなく、個人の価値観によって異なるということです。例えば、仮に電気が1日使えない状態となった場合を想定してみます。冷蔵庫・冷凍庫が使えず、入れていた食品が保存できなくなったとして、夫婦二人だけの家庭であれば、何日かはやりくりできるかもしれませんが、育ち盛りのお子さんが何人もいらっしゃる家庭であれば、翌日以降の食糧をどうするかは大きな問題となります。また、テレビが見られずもスマホの充電も尽きてしまったとして、災害時に一切の情報が手に入らないという危機的な状況になる場合もあれば、隣近所や地域の防災無線などがあるから問題は少ない、というケースもあります。

 このように、家庭や地域の事情などによって、災害対策の価値も変わってきますので、予め考えておくべきことは、もし停電になったら、どの電化製品・電子機器を、何日間くらい使い続けられるようにしたいか、を想定しておくことです。例えば、「テレビが1日数時間見られて、スマホが数日分使えれば良い」という程度であれば、その対策には様々な選択肢がありますので、他の選択肢を検討してみるのも良いでしょう。以下では、他の選択肢をいくつかご紹介いたします。

 

選択肢は、他にもある!

 費用対効果を鑑みながら災害対策を行いたい時に、高価な蓄電池を設置する意外にも選択肢はあります。上で紹介した①ガソリン燃料による発電機や、②ポータブル蓄電池がその代表例です。まず、①ガソリン燃料による発電機は天候に左右されませんし、ガソリンが長期間に渡って手に入らないほどの災害が起きる可能性はかなり低いでしょう。ただ、長期保存用のガソリンはかなり高価ですし、ガソリンは許可なく大量に保持することはできないので、災害発生後にガソリンスタンドに通う必要があることを覚悟しておかなくてはなりません。

 また、②ポータブル蓄電池は容量が小さいため、多くの電力を賄うことはできませんが、照明やスマホの充電くらいであれば数日間は耐えられる場合もあります。もし、③太陽光発電設備が既に設置されているのであれば、太陽光発電を利用して昼間に充電しておき、夜間のみ②ポータブル蓄電池で耐え凌ぐことも可能かもしれません。もちろん、②ポータブル蓄電池だけでは、エアコンや冷蔵庫などを長時間稼働させる容量はないので、停電時は諦めることを予め認識しておく必要があります。

 

 今回のポイントは、災害時にどのくらいの電力を確保したいか、またそれにどのくらいまでお金をかけていいと考えているか、という2点になります。安価なガソリン燃料による発電機やポータブル蓄電池でも、ある程度の対策は可能です。一方で、できるだけ災害に備えておきたいのであれば、家庭用蓄電池を設置し、かかった費用は災害対策であると考えて納得することも大事です。もちろん「ソーラーパネル+家庭用蓄電池」を設置しても、悪天候の日が続けば発電はされませんので、災害対策として十分とは言い切れません。したがって、自分の災害対策はどこまでの対策ができていて、どこからはできていないのかを明確にしておき、災害対策にかけたコストと手に入れた価値に自分が納得していることが最も重要なポイントと言えるでしょう。

 

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