2020.05.26

卸売業におけるプロジェクト事例

 今回は創業60年の卸売業におけるプロジェクト事例をご紹介いたします。この企業は、社長交代を迎えた時期であり、それに伴って社内オペレーションの効率化の必要性を感じたということで依頼がありました。

 このクライアントの業界はJIS規格が最初にできた業界ということもあり、非常に伝統ある業界です。一方、サプライヤーが多重構造なため、相見積に相見積が重なるのが普通です。その結果、下層の企業では案件の打率が著しく低い(10%以下)にもかかわらず大量の見積依頼が来てしまうという事態に陥っていました。営業担当者は1日のほとんどの時間(約70%)をデスクで電話とFAXを駆使した(?)見積作業に費やすこととなり、攻めの営業ができず受注率が一向に改善されない状況が続いていました。また、この見積作業そのものに関しても、クライアント社内の強い縦割り意識が原因で、ほとんど情報共有が行われていませんでした。よって営業担当者は個々人のネットワークのみを活用してサプライヤーソーシングや見積作業を行うこととなり、見積精度のばらつきも大きい状況でした。

 また社内のIT化についてもほとんど進んでおらず、本プロジェクト開始数ヶ月前に初めて社員個人のメールアドレスが配布されるというような状況でした。また、輸送費算出の際に必要な商品重量の計算はコンピュータではなく、なんとソロバンで行われていたのです!

 以上の状況から、まず解くべき課題をまとめると以下のようになりました。

<課題>

  1. 営業担当者が見積業務に追われ、本来の営業業務に注力できない
  2. 営業担当者ごとの見積価格の精度にばらつきが大きい
  3. 部署間のコミュニケーションが希薄で、全社横断的な活動がそもそも行いづらい
  4. 古い業界であるためITツールに対するアレルギーが強い

これらを受け、施策方針は大きく以下の3つを目標とすることに決まりました。

  1. 営業担当者の意識改善
  2. アルゴリズム作成による見積工数削減・見積精度向上
  3. 社内Webシステム構築および社内への浸透

 

これら3つの施策方針について詳しく見ていきましょう。

まずは「営業担当者の意識改善」です。本プロジェクトの担当者ははじめから協力的でしたが、営業担当者は上述の通り縦割り意識が強く、社内であっても見積価格情報などの重要情報は共有したがらない傾向にありました。そこで、社内コミュニケーションの重要性を喚起するために、社内の「見積精度のばらつき可視化」という名目のもと、仮想商品に関する見積価格アンケートを作成し、営業担当者に対して実施しました。このアンケート結果の分析により、平均値から上下20%程度のばらつきがあることが発覚したため、営業担当者同士でソーシングの方法や最適なサプライヤーについて議論するきっかけが生まれました。その結果、営業担当者が本プロジェクトに対して協力的な姿勢となり、システム導入のための社内的な地盤構築が前進しました。

次に「アルゴリズム作成による見積精度向上」です。協力的になってもらえた営業担当者や、彼らの担当するサプライヤーに対してヒアリングを重ね、商品の製造工程およびコスト構造を分解しました。そこからさらにヒアリングと情報収集を重ね、パラメータを最適化することによって、製品サイズなど少ない情報から誤差10%以内の見積を瞬時に算出可能なアルゴリズムを作成しました。もちろん、実際に工場にも何度も赴き、目で見て、耳で聞いて、実際のモノづくりを肌感覚で得た上で、アルゴリズムを作成していきました。

社内Webシステム構築および社内への浸透」に関しては、前述のアルゴリズム作成と一続きになっています。見積業務を効率化するべく、作成したアルゴリズムを組み込む形で社内向けWebシステムを構築しました。この際、ITリテラシーの高くない担当者でも利用しやすいよう、必要最低限の入力と操作で利用可能なようにヒアリングを重ねて用件定義し、設計構築を行いました。現在、本システムは社内向け営業管理ツール内に組み込まれており、社内浸透が進められています。

 

 いかがでしたでしょうか。今回の事例でも、やはりオペレーションの効率化において大事なのは、導入するシステム以上にそれを使う現場の人たちの意識だということが確認できたように思われます。クライアントに対して寄り添い、かつクライアント側にも歩み寄って頂けるように真摯に向き合うことで、より効果の大きいコスト削減が実現できるのです!

 実は本事例は現在進行中のプロジェクトであり、まだ数字としてのコスト削減効果は発現してはいません。しかし、担当者の姿勢が協力的になったり、部署を横断したコミュニケーションが促進されたりし、コスト削減効果を出す素地づくりは既に出来つつあります。今後、効果が定量的に現れた際にはその結果を、プロジェクト内で起こったハプニングなどと共に記事にしようかと思います。

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