物流センターの運営には会社経営と同等のスキルが求められます。自社の本部からも、荷主からも、最高レベルのQCDを求められ、それを実行しなければならないからです。逆を言えば、物流センターの運営を高次元で回している企業は、会社経営のレベルも高と言えるでしょう。
物流センターで働く人たちには、数字が苦手という人が少なからずいます。私も以前は大の苦手で、数字を把握するのに時間をかけるぐらいなら、1つでも多くピッキングすれば良い。と、本気で思っていました。数字を意識する様になったのは、私が卸売業の物流部門に所属していた頃でした。物流センターでの勤務から本部に配属になったタイミングで、当時の社長から、「絶えず数字をチェックしろ!」と、強制的にやらされたのがきっかけです。やらされたと表現した通り、当時の私は全く責任感が無く、ただただ1日中帳票類とにらめっこしていました。ところが、なんとなく眺めていた帳票類の細かい数字を少しだけ本気で見てみると、数字と数字の繋がり、関連性が分かってくる様になりました。この数字が下がるとこっちの数字が上がる、これが下がると同時にこれも下がる、ある商品が動き出すとこの商品も比例して動いていく、という様なロジックが理解出来るようになり、以降は自分から進んで数字を追いかけていくようになりました。3PL企業に所属していた時も、数字を強く求められましたが、割と少ないストレスで対応することが出来ました。
コスト削減の活動で追いかけていく数字を、「物流センター目線」で捉えるとどういうものかを、皆さんと共有出来たらと思います。
物流センターのコストの現状を把握する際は、以前投稿した 『働き方改革と物流コストのパラドックス』、『馬鹿にならない物流現場のコミュニケーションコスト』でも出てくる、「機能別」で振り分けると細かい分析が出来ます。
①輸配送・②保管・③荷役・④流通加工・⑤包装・⑥情報
では前述の6つ機能別にどの様なコストがあるかを見ていきましょう。
①輸配送:宅配便運賃、大口客へのトラックチャーター料、自社トラック維持費、ドライ
バー人件費など
②保管:自社倉庫の家賃、倉庫内の設備(修繕費含)、倉庫内の光熱・通信費、外部委託分
の支払など
③荷役:自家雇用スタッフ給与(賞与等積立含む)、臨時・派遣スタッフへの支払など
④流通加工:作業にかかった人件費、使用した資材費など
⑤包装:包装資材、ダンボール、パレットに巻くラップなど
⑥情報・その他:事務所スタッフ人件費、事務所家賃、各種システムの利用料、本部経費
など
④流通加工と⑤包装については、③荷役と区別がつきづらいため、③④⑤を合わせて「作業」とすることがあります。6大機能を少しまとめると、(1)輸配送(2)保管(3)作業、とすることが出来ます。企業によって項目の違いや按分の考え方が異なるため、あくまで参考レベルですが、こんな感じで分類されていると想像して問題ありません。
『物流センターを攻略しよう』でも取り上げましたが、物流コストの約半数は(1)輸配送に該当します。そこに、(2)保管、(3)作業、と続いていきます。(1)輸配送のコスト削減取組みのトレンドとしては、キャリア別の運賃にフォーカスするのは減少傾向にあります。各キャリアが人手不足やECの爆発的成長による荷物の急増に耐え切れないために値上げをしている、いわゆる「宅配クライシス」が影響しているからです。この宅配クライシスはしばらく続きそうです。輸配送のみにフォーカスし、キャリア企業への運賃値下げ交渉は、やぶへびとなるパターンが多く、アプローチすると逆に値上げされてしまうことがあるため、輸配送をメインにコストダウンを図るのは得策ではありません。保管や作業と組み合わせて取り組むのがトレンドとなっているようです。
※画像:ガジェット通信2013.11.14投稿より引用
(2)保管のコスト削減の取組みは、坪当たりの保管数を向上させることがメインと言えます。商品の入った段ボールをパレットに積んで床に並べて置いていくと、キレイですっきり見える反面、上の空間にムダが生じます。商品の載ったパレットの上に商品の載ったパレットを積み上げていくと、荷重により下段にある商品が潰れてしまいます。そこでネステナーやラックを設置してパレットを縦に保管できるように工夫していきます。商品を配置したり取り出したりするのに動線(通路)が必要なため、床全体に商品を隙間なく埋めることは出来ません。物流センターでは、限られたスペースにいかに多くの商品を保管し、且つ、効率的な作業をするための動線をいかにして確保するかを日々考えて作業を行っています。
※画像:ジョブール「物流センターの仕事内容20個の業務。経験者が教えます!」より引用
(3)作業のコスト削減を分かりやすく言うと、「1人が1時間の間に処理できる数量」を向上させることが基礎的な考え方となります。総じて「生産性の向上」ということです。例えば、現状では1日平均5,000件の出荷を、10人で10時間かけて完了しているとします。これを生産性の数値に置き換えると、5,000÷(10×10)=50件/人時、となります。この生産性を現状の50件/人時から60件/人時へ向上させるために、物流センターでは日々細かい改善を繰り返し行っているというわけです。
また、最近では、人手不足が物流センターで深刻な問題となっており、人手不足を補うために生産性の向上に取り組むケースが徐々に増えています。人手不足を補うために、求人広告を配布する範囲を市内から県内に広げたり、既存スタッフの離脱を防ぐために報酬を上げるなどの対策をとっています。当然、物流センターにとっては人件費の上昇となり、利益が減っていきます。報酬面でのアプローチや、業務改善活動では足りず、様々なテクノロジーを駆使したソリューションを導入し、省人化を図っています。
※画像:Logistics Today「タカハタ電子、デジタルピッキングをパッケージ化」より引用
これら(1)~(3)のコスト構造を、現場や管理側が十分に理解し、荷主側と共同でコスト削減を実践していきます。物流センター側の目線で考えると、荷主の物流コスト削減を実行するということは、自社の売上を減らすということになります。ただただ荷主側主導で、コスト削減に注力するのではなく、荷主側のコスト削減を実現しつつ、自社の利益率を向上させる取組みが必要となります。物流センターにとっては難易度最高レベルのミッションになります。
このミッションに日々取り組んでいる物流事業者、物流センターを、会社経営のプロフェッショナルと呼べるのも納得してもらえますよね?