2020.05.13

エンタメ企業における全社的なコスト削減プロジェクト事例

 今回は、エンタメ企業における全社的なコスト削減プロジェクト事例をご紹介いたします。このクライアントは、創業者が健在な同族経営の会社であり、世代交代を見越して人件費以外の全社的なコスト削減の必要性を感じたということで依頼を受けました。

 このクライアント内部では、同族会社である影響で各担当者に当事者意識が無く、また責任分散のためか、例えばメールのやり取りにCCで15人くらいのアドレスが入るような状況でした。しかし実際のところ、メールをやり取りしていて宛先以外のCCに入っている人から返信がくることはなく、体面を重視する風土に感じられました。また、クライアント内部に調達部門が無く、デザイン部門・マーケティング部門の力が強過ぎるため、「コストラスト※」でモノやサービスの購入が決まっていく構造になっていました。

※「コストラスト 」:「〜ファースト」の逆で、コストへの配慮が一番最後になることを意味する造語。

 

 そんな中、課題としては主に以下の3つが挙がりました。

  1. クライアント側の本プロジェクトメンバーが社長の顔を常に伺うため何も決められず、「石橋を叩いても叩いても渡るかまだ決めかねる」といった状況が続き、調査量が膨大になった
  2. デザイン部門、マーケティング部門の力が強過ぎて、少しでも売上減の可能性がある施策がことごとく却下される
  3. 客観的なデータの蓄積をしない企業体質(成功報酬のベースラインと効果算定方法の決定に多くの時間が取られ、本質的な分析や施策立案に使う時間が限られてしまう)

これらを受け、施策方針は大きく分けて2つ、「購買プロセスにおける『承認基準』および『決定・承認手順』の見直し」を行うという形になりました。前者では、社内MTGのために全国から集まる会議の必要性の見直しおよび会議費と交際費の利用基準の見直しに加え、「去年もやったから」という理由で長年KPI等を測定せずに開催している展示会の費用対効果の見直し、規模縮小を行いました。後者においては、法務費用や販促費の削減として、グローバル法務に対応可能な事務所を利用した全社的な弁護士・弁理士採用の集約、プリントマネジメントを活用したコスト管理を行いました。最終的には、40億円の支出に対して、1.5億円(4%)のコスト削減を実現しています。また、3つめの課題を解決することで、コンサルタントが抜けた後でも自分たちで継続的な改善をできる企業体質へと変えていくことにも繋がりました。

 今回は以下のようなプロセスで進めました。

表の中でも、赤く表記しているものについて順に詳しく見ていきましょう。

 まずは「対象品目の整理」です。このクライアントは上場会社ではあったのですが、経理データの管理が杜撰であり、請求書の明細は紙媒体でしかありませんでした。ですので、プロジェクト初期には50箱近くあった段ボールから該当する請求書を特定し、紙の請求データを電子化する作業が必要で、各品目毎でベースラインや効果算定の方法を考えるのに多くの時間を要しました。

 次に「実現性・効果に基づく品目の選定」ですが、こちらは制約条件にかなり縛られました。同族経営、調達部門が無いことで調達品や調達方法の変更難易度が高いため、非常に保守的にコスト削減額を算出し、その上でコスト削減に取組み品目を選定することとなりました。

 「新規サプライヤーへのヒアリング」においては、今まで部門毎でしか購買業務を行っておらず、全社的な調達活動を行うことでメリットの出るサプライヤーの選定を主に行いました。ここはボリュームゾーンであったため、コスト削減メリットの大きな施策も立案できたのですが、「品目の選定」と同様に制約条件に縛られてしまい、効果が見込めるにも関わらず実行に移せないような案も多くありました。

 最後に実際の「調達プロセスの改善」についてです。これは一言で言うと、「買い手の集約」ということになるのですが、品質の担保、コミュニケーションコストの削減と合わせて、バーゲニングパワーの向上によるコスト削減を測りました。また、これと合わせて、サプライヤーの集約として、新規採用も行いつつ、既存サプライヤーに関しては量と質を担保できるコスト競争力持ったサプライヤーを選定しました。また、クライアント内に費用対効果という観点が欠如していたため、求める効果と費用のバランスをKPI化して適切な基準作成を測りました。

 

いかがでしたでしょうか。コスト削減において、そもそも削減できる箇所を特定する上で電子媒体でのデータの蓄積は必須と言えるでしょう。「今は大変だから後で検討しよう」の積み重ねが後々に大きくなって「コスト」として返ってきますのでご注意を!

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